2016/01/13 22:16

 湯浅譲二をご存知の方は、相当な音楽通だ。現代音楽の世界では名は知られているけれど。でも、NHKの番組の音楽も書いているから、案外知られているの かな。朝ドラの「藍より青く」だとか、大河ドラマの「元禄太平記」や「草燃ゆる」、あるいは伊丹十三の「お葬式」なんかの音楽も彼の手によるもの。武満徹 と同じぐらい心惹かれる作曲家だ。もちろん、現代音楽も凄いとしか言いようがない。大河ドラマのテーマなんか、オーケストレーションがとにかく新鮮な感 じ。とても巧いと思った。
 彼と遭遇したのは、宮内庁楽部の秋の演奏会だったと思う。毎年楽部の建物の中で開かれる。先生がいたので、僕も皇居に よく聴きにいったものだ。彼は雅楽も書いているので、書いている最中だったのか、あるいは書く前に行ったのではなかったか。その容姿は、武満とは対象的 で、大きくて厚みがあった。慶応の医学部に進んで外科医を目指していたとも聞いた。そうですね、お医者さんという感じ。篤実な。 
 
 中 田喜直は知らぬ人とてない有名な歌曲の作曲家。「夏の思い出」の作者であり、「小さい秋みつけた」の作者だ。ほかにもいっぱい。すべて、とても素敵な歌ば かり。僕は、彼の歌も大好きだけど、ピアノの伴奏にとても感心している。無駄というものがない。誰でも弾けることを目指したとしか思えない。でも、とても 新鮮で美しい。凄いなあ。
 遭遇したのは、六本木のサントリーホールの向かい、広場を挟んだところに在ったレストランだった。店の名前は忘れた。 なにかのコンサートが終わった後だったのではなかったかな。サントリーホールは、僕が赤坂に小さなデザイン事務所を構えていた時分に開館し、何しろ歩いて いくらもかからない所だったので、よく時間をひねり出しては(なにしろバブルの最中で、とんでもなく忙しかった)、オーケストラなんかを聴きにいったもの だ。六本木に居を移してからも、やっぱり歩いて出かけたものだった。
 そのレストランで彼を見かけたときは、年輩のご婦人達に取り囲まれていた。 なんだろう、ママさんコーラスかなにかの団員達かしら。その時も、すぐそばの席だったので、僕の煙草に眉をひそめられた、と、思う。なんだかそんな気がし た。過去に黛氏のことがあったので、直ぐに煙草をもみ消したものだ。その時のご婦人達の嬌声(失礼)が今も耳に残っている。中田氏は、嬉しいような、そう でもないような顔でそこに在った、と、思う。